皆さんは複雑な形状の立体物の型紙を

作成されたご経験はおありでしょうか。

それは一言で表すならば

立体（3D）から平面（2D）へ

展開図を作成することと言って

差支えないと思います。

一般的に靴の型紙を作成する場合は

靴作成の基準中の基準であるラストに

マスキングテープを貼り付け、その上に

直接デザインを書き込みます。

その後、ラストからマスキングテープを

剥がし、そのテープを平面（台紙）に展開、

型紙を切り出していく作業となります。

しかし3Dのものを2Dに展開、それを

そのまま、もとある3Dに戻すことは

精緻なものを求める場合、とても困難です。

やはり微妙な誤差が生じるものです。

ラストは靴の全ての基本です。

その複雑なうねりを持った形状が、

靴の個性、美しさ、履きやすさに反映され、

靴の完成度を決めるといっても

過言ではありません。

だからこそラストの設計は繊細さを極め、

多くのトライ＆エラーを重ねながら

作成されるのです。

そうであれば、型紙も徹底的に

精緻なものでなければなりません。

せっかくラストが完璧なものであっても

その形に忠実に沿わなければ台無しです。

微妙な誤差をそのままにした場合、

必ず何らかの不具合が靴に現れるものです。

その誤差を無理やり埋めるために

不必要なまでの熱や力を加え、結果として

生産工程上で革を傷めてしまう・・・・。

そうやって完成した靴は、一見して

問題が無いように見えても、一度履くだけで

その革の傷みが表面に影響を及ぼしたり、

型が崩れてしまう等の問題を抱えています。

そこで、私たちは2Dで切り出した型紙で

生産に使用するアッパー材を裁断し、

もう一度ラストに貼り込みながら

型紙の修正を重ねていくという

地道な作業を続け、3Dパターンを

完成させることが出来ました。

それは高級車でさえも最終的には

人の手によって調整されるといったものと

近いものがあるかもしれません。

また3Dパターンが完成したからといっても

生産時にそれを2D（平面）上で

組み立てたのでは、その意味がありません。

実際”馬”とよばれる円柱形の上で立体的に

アッパーを組み立てる、有名ブランドを

手掛けるメーカーもあります。

しかし先ほども述べましたが、ラストは

起伏にとんだ複雑な形状をしているため,

それだけでは不十分であると私たちは

考えました。

そこで更なる精度を求めるために

そのパターンを1足1足、そのラストの上で

組み立てるという生産効率上、非効率が故に

現代ではビスポークでさえ稀な3D製法を

生産に投入することの検討を始めました。

因みにこの製法はラストの起伏にとんだ

表情に型紙をあわせることから

スプリング（反らせる・曲げる）・パターン

と呼ばれています。

しかしながら、この製法は一般的なものと

比較して多くの手間と時間が掛かるため

生産現場においては、リスクが高く

その投入には、

大きな経営判断を迫られます。

私たちは生産現場のリーダーと何度も

話し合い、議論を重ね、

どうするべきかを模索しました。

もちろん、物的生産効率も製造現場において

コストを左右する大事な生産性の指標です。

議論が煮詰まり、誰しもの口が重くなった時

誰ともなく、故ハッサン氏についての

話が始まったのです。

ハッサン氏は、インドのアファンシューズの

創始者であり、CEOとしても多くの人々の

尊敬を集めていました。

残念ながら、2019年に逝去されましたが

いまでも工場の精神的支柱として

皆の心に影響を与えています。

彼は敬虔なイスラム教徒であり、

信念の人でもありました。

そしてこう周りの人々に話していました。

「ビジネスもそして自分の人生にも

神に恥じるものであってはならない。

また日本人のお客様の立場に立ち、

物を造る『物造り』に誇りと信念を持ち、

時にそれがビジネスよりも優先されるという

そのメンタリティに深い共感と

尊敬の念を感じている。

そういう国の人々に、自分が出来るベストを

もって『Made in India』のビジネスと

商品を造ることが、私の夢である。」

この彼の言葉が思い出されたとき、

私たちが最も大切にするべきことが

はっきりしました。

確かに生産性を始めとする指標は大事です。

しかしそれ以上に大事なことは

私たちのフィロソフィーです。

それは、今できるベストを尽くすことであり

たとえ他メーカーが二の足を踏むようなこと

であっても自分たちにとって嘘のない商品を

造るために協力し合い、挑戦することです。

そう決まれば、もう迷うことはありません。

ご購入された方の満足をいただくために

私たちに今できるベストを尽くすのみです。

非効率かもしれません。

しかし、私たちはメーカーとして

やらなければならないことを

そのままにしておくつもりはありません。

挑戦は続きます。

–今できるBESTを–

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